空想特撮シリーズ
ウルトラマンファイア
魔獣使いの夜
登場人物
ヒダカ・マコト
ナナセ・リオ
ハラ・カツヒコ
イヌイ・ケイスケ
アカツキ・マヤ
イザキ・シュウジ
ムカイ・イチロウ
サワタリ・イサミ
少女(・・・・・・・少女時代のリオ)
魔獣使い(・・・・・シルクハットの男)
子供
母親
深海王子パルゴン
異次元悪魔マプーワ
ウルトラマンファイア
「ウルトラQ 空想特撮シリーズ」




1、 湾曲する空間 チャイコフスキー「くるみ割り人形/こんぺいとうの踊り」
(→ほぼ全編を通して流れる)が流れ、
宝石の欠片が幻想的に舞い散る。
N 「目をつぶって見るものは?―――「目蓋の裏」ではありません。
答えはもちろん『夢』―――」
2、 タイトル 「ウルトラマンファイア」

「魔獣使いの夜」

(F・I) クレジット・タイトル――― (F・O)
「異次元悪魔マプーワ 登場」
3、 森(大雨) 激しく降る雨の中を走る一人の少女。
そこに古い倉庫を見つける。
4、 倉庫・軒先 雨宿りする少女。
奥から何か足音がすることに気づく。
ついつい中へと入っていく。
5、 倉庫内 雨漏り。
オンボロだが倉庫内は意外に広い。
誰かに見られている気がして振り向くと―――眼前に異形の怪物・・・・・!
6、 LEAD本部/特専ルーム 歓談しながら入ってくるヒダカ、ハラ、イヌイ。
リオ 「あー! そこで止まってください!」
頭にシャインを乗せて、ハタキを手にしたリオ。
ハラ 「何してんだ?」
リオ 「近頃、雨がちでじめじめしてるんで、スッキリ綺麗に
掃除して、気分を入れ替えようと思って!」
イヌイ 「またか・・・・・」
と、デスクに着こうとするが、
リオ 「そこは今拭いたばかりです! 今回は思い切って全体
をお掃除するので、皆さん手伝ってくださいね!」
ヒダカ+ハラ+イヌイ
「!?」
リオ 「皆さんの分も準備しておきましたよ」
・・・・・と、掃除用品一式を取り出すリオ。
× × ×
イヌイ 「なんて言ってたクセに」
ハラ 「すっかり寝息を立てているじゃねえか」
デスクでうたた寝をするリオ。
ヒダカ 「多少そそっかしいが新入りにしてはよくやってるよ。
しばらくそっとしてやろう」
イヌイ 「こんな雨の日は・・・・・」
7、 LEAD本部基地・全景(雨) イヌイ 「(OFF)何も起こらないといいっスね」
外は真っ暗、土砂降り―――
8、 倉庫内 少女 「深海王子・・・・・パルゴン?」
背後に現れたのは、怪獣の着ぐるみだった。
蜘蛛の巣がはり、色も褪せている。
貼り付けられたメモがかろうじて読める。
少女 「汚いわね・・・・・随分長くここに置かれてたみたい」
そう言って埃を払い、そこそこキチンとさせる。
少女 「うーん、少しはマシになったかな?」
コツン・・・・・コツン・・・・・そこに足音が近づいてくる。
ステッキをつきながら現れるシルクハットの男―――
9、 倉庫外 その時、一発の雷鳴が轟く。
10、住宅街(夜/霧) 灯りの乱反射する道を走るパトカー。
ダミ声がゆっくりと響く。
警官 「付近住民の皆さん・・・・・現在避難警報の発令中です・・・・・
速やかに所定の経路で避難してください・・・・・」
眠りを妨げられ、着の身着のままで走る住民達。
マンションの谷間から、その顔に電線を引っ掛け
ノッソリと現れた、怪獣マプーワ。
住民 「来た! LEADが来たぞ!」
11、黒舞台 ピアノ線で吊られたブースターソード(のオモチャ)がライト・アップされる。
12、サワタリの顔 サワタリ「総員に告ぐ! ブースターを切り離し攻撃態勢! 怪獣を撃滅せよ!」
13、黒舞台 FAST「(OFF)了解!」
手が伸び、ソード(のオモチャ)からブースター
を取り外す。
14、住宅街 狭いアパート間を高速飛行する2機のソードRED。
その先に待ち構えるマプーワ。
ソード、急上昇しながら瞬光弾を次々と決める。
15、黒舞台 ライトはマプーワ(の人形)とその周りに倒れる
積み木を照らす。
その上で紐を支点にぐるぐる回るソード(のオモチャ)。
16、住宅街 避難の波の中のリオ。
リオ 「あの怪獣・・・・・攻撃がまるで効いてない!」
ヒダカ 「(OFF/無線)リオ隊員、応答せよ」
リオ 「隊長!?」
17、ソードBLUE ヒダカ、ハラ、イヌイが乗っている。
ヒダカ 「僕らはFASTの後方支援に回る!」
18、住宅街 ヒダカ 「(OFF/無線)君は逃げ遅れた人がいないか見回ってくれ!」
リオ 「は・・・・・ハイ! 了解!」
人気の無い道を走るリオ。
リオ 「誰かいませんかァ? いませんよねェ・・・・・」
その先に、倉庫。
19、倉庫内 ガタン、扉を開けるリオ。
リオ 「!?」
その場に立っていた、シルクハットの男。
男、リオを手招きする。
そこにはパルゴンの着ぐるみ。
リオ 「・・・・・?」
男、ステッキを大きく振る。
―――と、パルゴンが独りでに立ち上がり、リオ
に向かって歩いてくる。
パルゴン「遊ぼう」
リオ 「え?」
パルゴン「外は雨だよ。遊ぼう」
20、倉庫/外 激しい土砂降りに打たれるリオ。
リオ 「あれ・・・・・怪獣が・・・・・いたはずなのに」
21、倉庫内 パルゴン「言ったとおりでしょ? 遊ぼう」
そこには積木の街が用意されている。
リオ 「遊ぶって言われても・・・・・私はそんな子供じゃないもの」
パルゴン「子供だよ」
リオ 「!?」
リオ、いつの間にか少女の姿になっている。
その様子を天井に浮いて見つめるシルクハットの男。
22、外 雨―――。
23、マンションの一室 電気の消えた部屋。
ベッドの上の子供が窓を見ている。
そこに巨大な目玉が光っている。
24、その外(夜) マンションの真横を、怪獣マプーワがゆっくりと
のし歩く。
25、マンション内 掛け時計がそろそろ午前0時になろうとしている。
子供 「(OFF)表に怪獣がいるよ、ママ」
母親 「(OFF)怪獣なんているわけないでしょ。悪い夢で
も見たのね。もう遅いから早くベッドに戻りなさい」
子供 「本当にいたんだよォ」
26、マンション外 空間が歪んでできたワープ空間に消えていくマプーワ。
0時になった時計が鳴る。
27、倉庫内 不可解な異次元空間と化した倉庫内。
上下左右が混乱し、いくつもの着ぐるみが浮遊する。
少女(=リオ)が積木を崩す。
少女 「もう飽きたっ! もう帰る! それに・・・・・」
パルゴンを捕まえて、背後のチャックを無理やり
ひっぱる。
少女 「中に誰か入ってるんでしょ! 出てきなさいよ!」
パルゴン「イタタタタ! ヤメテ! ヤメテよ!」
少女 「あ・・・・・ゴメン」
パルゴン「ここは夢が現実に、未来が今になる場所なんだ。世界
は見る人によって嘘にも本当にもなるんだよ」
キョトン、とする少女。
パルゴン「創るのも、信じるのも、みんなが自由。だから、夢」
28、階段 少女 「本当にこっちが出口なの?」
パルゴン「ウウン」
少女 「じゃ、じゃあどうしてこんな奥に連れてきたの!?」
パルゴン「帰り・・・・・たいんでしょ?」
少女 「ウ・・・・・うん、もちろん!」
パルゴン「だったら、『魔獣使い』のおじさんを見つけないとい
けないんだ。ここは、『魔獣使い』が作った世界だか
ら」
ますます話がわからない少女。
パルゴン、急に話しに勢いが増す。
パルゴン「でも、この世界の中なら、僕らの好きな世界を創りだせるんだよ!
君が帰りたい世界が『現実』なら、ここではその『現実』が
君の望んだ世界になるんだ!
ね、いいでしょ、ここにいようよ」
少女 「私の好きな世界が・・・・・つくれるってこと?」
パルゴン「そう、ここは君だけの世界」
少女、頭の中で何か念じる―――。
それを壁から浮き出して見ていたシルクハットの
『魔獣使い』、ステッキを振る。
29、住宅街・橋の上(夜) 少女 「ここは・・・・・やった! 元の世界に帰れた!」
突然居場所が変わり、驚くパルゴン。
パルゴン「何を考えたの!? どんな世界にしたの!?」
少女の姿、大人のリオに戻っている。
リオ 「私・・・・・確かにLEADの隊員として、怪獣と戦って
いたのよ。元の現実に戻りたいって。だから・・・・・」
ゴオオオオ・・・・・!
川の底からワープ空間を抜けて現れる怪獣マプーワ。
逃げるリオとパルゴン。
マプーワ、橋を押し潰す。
30、住宅街 パルゴン「こ、こんな世界どこが楽しいの!?」
リオ 「で、でも、これが現実だから・・・・・」
声 「じゃあ、これも夢だとしたら?」
リオ 「誰!?」
マンションの屋上に誰か立っている。
リオ 「これも夢・・・・・!?」
ヒダカ 「(暗闇の中で姿見せず)君はまだ、魔獣使いが創りだした
夢の中から抜け出せていない。早く夢から醒めろ!」
掲げられたブレイズタイマーに、黒雲から雷が落ちる。
その光に、何が起きたか見えなかったリオ。
シュワア・・・・・
マンションの屋上に膝をついて現れる、ウルトラマンファイア。
リオ 「ウルトラマン!」
普段以上に住宅地を破壊しながらマプーワと格闘する
ファイア―――。
リオ 「ここは『夢』なんかじゃない・・・・・でも、『現実』だって証拠も
あるわけじゃないし・・・・・。私はこの世界にいて、
この世界を見ている。夢か現実か・・・・・
私は一体どっちの世界にいるんだろう?」
ソルゼウム光線がマプーワを炎上させる。
が、その背後にワープ空間が出現、
中から再びマプーワが現れる。
既にカラータイマーはBurst Limitを迎えている。
パルゴン「あの怪獣、何度倒しても出てくるよ!」
リオ 「これは・・・・・やっぱり夢なの? でも・・・・・」
魔獣使い「果たして本当にそう言い切れるかい?」
31、湾曲する空間 宝石の欠片が舞い踊る、異空間を彷徨うリオ。
魔獣使い「夜が明ければ君は『現実』に縛られる。不自由な『現実』のために君は・・・・・
『夢』を捨てるのかい?」
無数に増殖したマプーワに囲まれるファイア。
疲労困憊して手をついている。
リオ 「でも―――それでも私は、『現実』のほうを選ぶ・・・・・。
確かに現実は―――苦しくて、辛くて、ぐちゃぐちゃで・・・・・。
でも、『現実』で『夢』が持てないわけじゃない。
あんな世界だから・・・・・私の夢に少しでも近づけたいと
思うから・・・・・」
32、住宅街 パルゴン「どうしたの!?」
リオ 「え? あれ? 私何を・・・・・」
鳴り響くタイマー音。
リオ 「パルゴン、私と一緒に願って! ウルトラマンが絶対
勝つって!」
パルゴン「え!? でも怪獣があんなにいるのに・・・・・」
リオ 「ここは、夢の世界。それに、夢なら―――叶うはずでしょ?」
―――刹那、無数の流星が住宅街に降り立つ。
何人もの光の巨人が、マプーワの集団に光線を放つ!
シュワア!
消え去る怪獣の大群。
光の巨人は光の粒子となって、ファイアのタイマーに
集まり、輝きを青に変える。
リオ 「やった!」
パルゴン「でも、1匹残ってる」
ファイアに体当たりするマプーワ、
が、逆に巴投げを合わせられる。
マプーワ、リオ達の元へとんでくる。
リオ 「こっちにきた!」
パルゴン「飛んで逃げよう!」
ふわりと宙に浮かぶリオとパルゴン。
リオ 「そうか、ここは夢だったんだ」
地面に叩きつけられるマプーワ。
しかしその体をワープ空間に沈めていく。
ファイアの上に現れるワープ空間、が、ファイア
は気づいていない。
リオ 「危ない! ウルトラマン!」
振り向くファイア、スッと胸で念力の構え。
突き出された両手から出た光線が、空間から抜け
出ようとしていたマプーワの空間穴を固定する。
力を込めてじわじわと両腕を閉じるファイア。
パルゴン「ウルトラマンは、空間を閉じようとしているんだ!」
バチン!
ファイアの両拳がぶつかる瞬間、空間が閉じた。
シルクハットが落ちてくる。
33、空から見下ろす住宅街 収縮していく眼下の世界。
リオ 「あの怪獣の正体が、『魔獣使い』?」
パルゴン「主が消えたからこの世界は終わろうとしているんだよ。
もう君は帰れるはずだ」
リオ 「パルゴンはどうするの?」
パルゴン「倉庫に眠っていた僕の夢は、誰かと遊ぶことだったん
だ。そうしたら急に動けるようになった。今度は誰か
こないかなー、って思ったら」
リオ 「ま、まさかそれで私がここに?」
と、パルゴンのチャックが開き、中から少女(=※前出のリオの幼少)が出てくる。
パルゴン「僕は・・・・・僕の夢の世界で、また誰かが来てくれるのを待つよ」
リオ 「でも、今度遊ぶのは朝までね」
ファイアの手に乗ったリオに手を振る、少女の姿となったパルゴン。
ファイア、瞬間移動の構え、その姿が消えていく―――
34、LEAD基地・特専ルーム(消灯) 目を覚ますリオ。
リオ 「本部の中・・・・・そうか・・・・・夢を見ていたんだ」
暗い陰からヒダカが歩み寄る。
ヒダカ 「怪獣が空間を行き来する度に、夢と現実がねじれて、
出口の無い夢の世界になってしまったんだ」
リオ 「そうです・・・・・え!? でもどうして隊長が私の夢を・・・・・」
リオ、ひらめく。
リオ 「まさか、隊長がウル・・・・・」
リオの顔の前に人差し指を突き出すヒダカ。
ヒダカ 「それは、これが夢だからだ」
ヒダカの姿が、だんだん目蓋から遠くなり―――
35、黒舞台 ライトを浴びるリオ、振り返る。
リオ 「え!?」
暗転。
幕が下りる。
《 以下次回 》
<登場怪獣>
異次元悪魔 マプーワ異次元に住む謎の存在。
リオの<夢>空間ではシルクハットの男の姿をしていた。
空間を自由に行き来したり、自分の分身をつくりだすことができる。
深海王子 パルゴンかつて企画された特撮番組に登場予定だったが
放送前に制作会社が倒産したために、倉庫に文字通りお蔵入りしていた。
◆ ◆ ◆
実相寺監督作品のビジュアルイメージに
バレエ「くるみ割り人形」を意識したお話。
イメージ上は、やってくる光の巨人達は歴代ウルトラマンであった。
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