地球は混乱していた。
現在火星の公転軌道上に発見された
謎の彗星が、さらにその速度を上げたのだ。
各国のスーパー・コンピュータは、
およそ3日後に98.99%の確率で
その彗星が地球に衝突する計算をはじきだした。
既に各地のシェルターは、多くの富豪・政治家・有力者の
予約で満員になっているらしい。
人々は地上で逃げ惑い、全ての法は失われた。
信号を無視した暴走車同士が衝突し、強盗や暴行が溢れかえり、
都市から離れる磁力列車には、助かることに必死な人々が我先にと乗り込んだ。
「乗車ルールを守りましょう。お年寄りの方、体の不自由な方には優先
的に席をお譲りください・・・」人間を満載した列車は、何度も自動ドアを開閉した後、
地方へと発進した。
3日後。
突如として彗星はその速度を緩め、
地球をかすめるように彼方へと飛び去っていった。
科学者達はあっけにとられていたが、ますは自分達が無事だったことを
喜ぶことに躍起になっていた。
地球を去った彗星―正しくは彗星型宇宙船の中で
頭から3本の触角が伸びた銀色の人間が二人、会話を交わしていた。
「久しぶりのドライブなんでついついスピードを出しすぎてしまったよ。
あんなに遅い星がまだあったなんて、あやうく事故になるところだった」
「仕方ないよ。まだ乗組員が発達していないようだし。でも我々が
学ぶべきことも言っていたよ。弱い者に道を譲ってやれって」
私はついにこの惑星の覇者となった。
すでに私に歯向かう者はいない。宮殿には私を称える旗がひらめき、
広大な支配地を見下ろす丘には銅像が建設中だ。
さて、この後はどうしたものか。
金に不自由することもない。あらゆる物も私が望めば手に入る。
黄金で彩られた天窓を眺めながら、私は物思いに耽っていた。
そして私は、ふと思いついたのだ。
特に理由があったわけではない。突如としてその気持ちが沸きだした。
まさに神の啓示、私が天から選ばれた証拠ともいうべきか。
「これより、外惑星へと侵略を開始する。用意をせよ」
私はこの小さな世界で留まる器ではないのだ。
より巨大な宇宙こそ、私が支配するにふさわしい。
それからの行動は早かった。
宇宙のあらゆる環境に適応する戦闘円盤。
敵の防衛組織を機能不全にする毒ガス兵器。
さらには敵を我々に同化させる催眠波動砲・・・。
全ては整った。
いずれ私は大宇宙の支配者となるだろう。
誰も歯向かえるものか。私を止められるものか。
欲望のままにすべてを覆い尽くしてやろう・・・。
「いやあ、本当に早いうちに発見できてよかったですよ。
この手のモノは、拡がってからでは手が付けられなくなりますからね。
とりあえず今回はやっつけましたが、今後も油断しないでください」
「先生、それで・・・」
「欲望のまま行動しないことですな。酒、タバコはひかえること」
「はい・・・」
そして男は、「がんを防ぐ注意点」と書かれたチラシを渡され、
疲れきった顔で病院を去っていった。