空想特撮シリーズ
ウルトラマンファイア
魔獣使いの夜
登場人物
ヒダカ・マコト
ナナセ・リオ
ハラ・カツヒコ
イヌイ・ケイスケ
アカツキ・マヤ
イザキ・シュウジ
ムカイ・イチロウ
サワタリ・イサミ
少女(・・・・・・・少女時代のリオ)
魔獣使い(・・・・・シルクハットの男)
子供
母親
深海王子パルゴン
異次元悪魔マプーワ
ウルトラマンファイア
「ウルトラQ 空想特撮シリーズ」




1、 湾曲する空間 チャイコフスキー「くるみ割り人形/こんぺいとうの踊り」
(→ほぼ全編を通して流れる)が流れ、
宝石の欠片が幻想的に舞い散る。
N 「目をつぶって見るものは?―――「目蓋の裏」ではありません。
答えはもちろん『夢』―――」
2、 タイトル 「ウルトラマンファイア」

「魔獣使いの夜」

(F・I) クレジット・タイトル――― (F・O)
「異次元悪魔マプーワ 登場」
3、 森(大雨) 激しく降る雨の中を走る一人の少女。
そこに古い倉庫を見つける。
4、 倉庫・軒先 雨宿りする少女。
奥から何か足音がすることに気づく。
ついつい中へと入っていく。
5、 倉庫内 雨漏り。
オンボロだが倉庫内は意外に広い。
誰かに見られている気がして振り向くと―――眼前に異形の怪物・・・・・!
6、 LEAD本部/特専ルーム 歓談しながら入ってくるヒダカ、ハラ、イヌイ。
リオ 「あー! そこで止まってください!」
頭にシャインを乗せて、ハタキを手にしたリオ。
ハラ 「何してんだ?」
リオ 「近頃、雨がちでじめじめしてるんで、スッキリ綺麗に
掃除して、気分を入れ替えようと思って!」
イヌイ 「またか・・・・・」
と、デスクに着こうとするが、
リオ 「そこは今拭いたばかりです! 今回は思い切って全体
をお掃除するので、皆さん手伝ってくださいね!」
ヒダカ+ハラ+イヌイ
「!?」
リオ 「皆さんの分も準備しておきましたよ」
・・・・・と、掃除用品一式を取り出すリオ。
× × ×
イヌイ 「なんて言ってたクセに」
ハラ 「すっかり寝息を立てているじゃねえか」
デスクでうたた寝をするリオ。
ヒダカ 「多少そそっかしいが新入りにしてはよくやってるよ。
しばらくそっとしてやろう」
イヌイ 「こんな雨の日は・・・・・」
7、 LEAD本部基地・全景(雨) イヌイ 「(OFF)何も起こらないといいっスね」
外は真っ暗、土砂降り―――
8、 倉庫内 少女 「深海王子・・・・・パルゴン?」
背後に現れたのは、怪獣の着ぐるみだった。
蜘蛛の巣がはり、色も褪せている。
貼り付けられたメモがかろうじて読める。
少女 「汚いわね・・・・・随分長くここに置かれてたみたい」
そう言って埃を払い、そこそこキチンとさせる。
少女 「うーん、少しはマシになったかな?」
コツン・・・・・コツン・・・・・そこに足音が近づいてくる。
ステッキをつきながら現れるシルクハットの男―――
9、 倉庫外 その時、一発の雷鳴が轟く。
10、住宅街(夜/霧) 灯りの乱反射する道を走るパトカー。
ダミ声がゆっくりと響く。
警官 「付近住民の皆さん・・・・・現在避難警報の発令中です・・・・・
速やかに所定の経路で避難してください・・・・・」
眠りを妨げられ、着の身着のままで走る住民達。
マンションの谷間から、その顔に電線を引っ掛け
ノッソリと現れた、怪獣マプーワ。
住民 「来た! LEADが来たぞ!」
11、黒舞台 ピアノ線で吊られたブースターソード(のオモチャ)がライト・アップされる。
12、サワタリの顔 サワタリ「総員に告ぐ! ブースターを切り離し攻撃態勢! 怪獣を撃滅せよ!」
13、黒舞台 FAST「(OFF)了解!」
手が伸び、ソード(のオモチャ)からブースター
を取り外す。
14、住宅街 狭いアパート間を高速飛行する2機のソードRED。
その先に待ち構えるマプーワ。
ソード、急上昇しながら瞬光弾を次々と決める。
15、黒舞台 ライトはマプーワ(の人形)とその周りに倒れる
積み木を照らす。
その上で紐を支点にぐるぐる回るソード(のオモチャ)。
16、住宅街 避難の波の中のリオ。
リオ 「あの怪獣・・・・・攻撃がまるで効いてない!」
ヒダカ 「(OFF/無線)リオ隊員、応答せよ」
リオ 「隊長!?」
17、ソードBLUE ヒダカ、ハラ、イヌイが乗っている。
ヒダカ 「僕らはFASTの後方支援に回る!」
18、住宅街 ヒダカ 「(OFF/無線)君は逃げ遅れた人がいないか見回ってくれ!」
リオ 「は・・・・・ハイ! 了解!」
人気の無い道を走るリオ。
リオ 「誰かいませんかァ? いませんよねェ・・・・・」
その先に、倉庫。
19、倉庫内 ガタン、扉を開けるリオ。
リオ 「!?」
その場に立っていた、シルクハットの男。
男、リオを手招きする。
そこにはパルゴンの着ぐるみ。
リオ 「・・・・・?」
男、ステッキを大きく振る。
―――と、パルゴンが独りでに立ち上がり、リオ
に向かって歩いてくる。
パルゴン「遊ぼう」
リオ 「え?」
パルゴン「外は雨だよ。遊ぼう」
20、倉庫/外 激しい土砂降りに打たれるリオ。
リオ 「あれ・・・・・怪獣が・・・・・いたはずなのに」
21、倉庫内 パルゴン「言ったとおりでしょ? 遊ぼう」
そこには積木の街が用意されている。
リオ 「遊ぶって言われても・・・・・私はそんな子供じゃないもの」
パルゴン「子供だよ」
リオ 「!?」
リオ、いつの間にか少女の姿になっている。
その様子を天井に浮いて見つめるシルクハットの男。
22、外 雨―――。
23、マンションの一室 電気の消えた部屋。
ベッドの上の子供が窓を見ている。
そこに巨大な目玉が光っている。
24、その外(夜) マンションの真横を、怪獣マプーワがゆっくりと
のし歩く。
25、マンション内 掛け時計がそろそろ午前0時になろうとしている。
子供 「(OFF)表に怪獣がいるよ、ママ」
母親 「(OFF)怪獣なんているわけないでしょ。悪い夢で
も見たのね。もう遅いから早くベッドに戻りなさい」
子供 「本当にいたんだよォ」
26、マンション外 空間が歪んでできたワープ空間に消えていくマプーワ。
0時になった時計が鳴る。
27、倉庫内 不可解な異次元空間と化した倉庫内。
上下左右が混乱し、いくつもの着ぐるみが浮遊する。
少女(=リオ)が積木を崩す。
少女 「もう飽きたっ! もう帰る! それに・・・・・」
パルゴンを捕まえて、背後のチャックを無理やり
ひっぱる。
少女 「中に誰か入ってるんでしょ! 出てきなさいよ!」
パルゴン「イタタタタ! ヤメテ! ヤメテよ!」
少女 「あ・・・・・ゴメン」
パルゴン「ここは夢が現実に、未来が今になる場所なんだ。世界
は見る人によって嘘にも本当にもなるんだよ」
キョトン、とする少女。
パルゴン「創るのも、信じるのも、みんなが自由。だから、夢」
28、階段 少女 「本当にこっちが出口なの?」
パルゴン「ウウン」
少女 「じゃ、じゃあどうしてこんな奥に連れてきたの!?」
パルゴン「帰り・・・・・たいんでしょ?」
少女 「ウ・・・・・うん、もちろん!」
パルゴン「だったら、『魔獣使い』のおじさんを見つけないとい
けないんだ。ここは、『魔獣使い』が作った世界だか
ら」
ますます話がわからない少女。
パルゴン、急に話しに勢いが増す。
パルゴン「でも、この世界の中なら、僕らの好きな世界を創りだせるんだよ!
君が帰りたい世界が『現実』なら、ここではその『現実』が
君の望んだ世界になるんだ!
ね、いいでしょ、ここにいようよ」
少女 「私の好きな世界が・・・・・つくれるってこと?」
パルゴン「そう、ここは君だけの世界」
少女、頭の中で何か念じる―――。
それを壁から浮き出して見ていたシルクハットの
『魔獣使い』、ステッキを振る。
29、住宅街・橋の上(夜) 少女 「ここは・・・・・やった! 元の世界に帰れた!」
突然居場所が変わり、驚くパルゴン。
パルゴン「何を考えたの!? どんな世界にしたの!?」
少女の姿、大人のリオに戻っている。
リオ 「私・・・・・確かにLEADの隊員として、怪獣と戦って
いたのよ。元の現実に戻りたいって。だから・・・・・」
ゴオオオオ・・・・・!
川の底からワープ空間を抜けて現れる怪獣マプーワ。
逃げるリオとパルゴン。
マプーワ、橋を押し潰す。
30、住宅街 パルゴン「こ、こんな世界どこが楽しいの!?」
リオ 「で、でも、これが現実だから・・・・・」
声 「じゃあ、これも夢だとしたら?」
リオ 「誰!?」
マンションの屋上に誰か立っている。
リオ 「これも夢・・・・・!?」
ヒダカ 「(暗闇の中で姿見せず)君はまだ、魔獣使いが創りだした
夢の中から抜け出せていない。早く夢から醒めろ!」
掲げられたブレイズタイマーに、黒雲から雷が落ちる。
その光に、何が起きたか見えなかったリオ。
シュワア・・・・・
マンションの屋上に膝をついて現れる、ウルトラマンファイア。
リオ 「ウルトラマン!」
普段以上に住宅地を破壊しながらマプーワと格闘する
ファイア―――。
リオ 「ここは『夢』なんかじゃない・・・・・でも、『現実』だって証拠も
あるわけじゃないし・・・・・。私はこの世界にいて、
この世界を見ている。夢か現実か・・・・・
私は一体どっちの世界にいるんだろう?」
ソルゼウム光線がマプーワを炎上させる。
が、その背後にワープ空間が出現、
中から再びマプーワが現れる。
既にカラータイマーはBurst Limitを迎えている。
パルゴン「あの怪獣、何度倒しても出てくるよ!」
リオ 「これは・・・・・やっぱり夢なの? でも・・・・・」
魔獣使い「果たして本当にそう言い切れるかい?」
31、湾曲する空間 宝石の欠片が舞い踊る、異空間を彷徨うリオ。
魔獣使い「夜が明ければ君は『現実』に縛られる。不自由な『現実』のために君は・・・・・
『夢』を捨てるのかい?」
無数に増殖したマプーワに囲まれるファイア。
疲労困憊して手をついている。
リオ 「でも―――それでも私は、『現実』のほうを選ぶ・・・・・。
確かに現実は―――苦しくて、辛くて、ぐちゃぐちゃで・・・・・。
でも、『現実』で『夢』が持てないわけじゃない。
あんな世界だから・・・・・私の夢に少しでも近づけたいと
思うから・・・・・」
32、住宅街 パルゴン「どうしたの!?」
リオ 「え? あれ? 私何を・・・・・」
鳴り響くタイマー音。
リオ 「パルゴン、私と一緒に願って! ウルトラマンが絶対
勝つって!」
パルゴン「え!? でも怪獣があんなにいるのに・・・・・」
リオ 「ここは、夢の世界。それに、夢なら―――叶うはずでしょ?」
―――刹那、無数の流星が住宅街に降り立つ。
何人もの光の巨人が、マプーワの集団に光線を放つ!
シュワア!
消え去る怪獣の大群。
光の巨人は光の粒子となって、ファイアのタイマーに
集まり、輝きを青に変える。
リオ 「やった!」
パルゴン「でも、1匹残ってる」
ファイアに体当たりするマプーワ、
が、逆に巴投げを合わせられる。
マプーワ、リオ達の元へとんでくる。
リオ 「こっちにきた!」
パルゴン「飛んで逃げよう!」
ふわりと宙に浮かぶリオとパルゴン。
リオ 「そうか、ここは夢だったんだ」
地面に叩きつけられるマプーワ。
しかしその体をワープ空間に沈めていく。
ファイアの上に現れるワープ空間、が、ファイア
は気づいていない。
リオ 「危ない! ウルトラマン!」
振り向くファイア、スッと胸で念力の構え。
突き出された両手から出た光線が、空間から抜け
出ようとしていたマプーワの空間穴を固定する。
力を込めてじわじわと両腕を閉じるファイア。
パルゴン「ウルトラマンは、空間を閉じようとしているんだ!」
バチン!
ファイアの両拳がぶつかる瞬間、空間が閉じた。
シルクハットが落ちてくる。
33、空から見下ろす住宅街 収縮していく眼下の世界。
リオ 「あの怪獣の正体が、『魔獣使い』?」
パルゴン「主が消えたからこの世界は終わろうとしているんだよ。
もう君は帰れるはずだ」
リオ 「パルゴンはどうするの?」
パルゴン「倉庫に眠っていた僕の夢は、誰かと遊ぶことだったん
だ。そうしたら急に動けるようになった。今度は誰か
こないかなー、って思ったら」
リオ 「ま、まさかそれで私がここに?」
と、パルゴンのチャックが開き、中から少女(=※前出のリオの幼少)が出てくる。
パルゴン「僕は・・・・・僕の夢の世界で、また誰かが来てくれるのを待つよ」
リオ 「でも、今度遊ぶのは朝までね」
ファイアの手に乗ったリオに手を振る、少女の姿となったパルゴン。
ファイア、瞬間移動の構え、その姿が消えていく―――
34、LEAD基地・特専ルーム(消灯) 目を覚ますリオ。
リオ 「本部の中・・・・・そうか・・・・・夢を見ていたんだ」
暗い陰からヒダカが歩み寄る。
ヒダカ 「怪獣が空間を行き来する度に、夢と現実がねじれて、
出口の無い夢の世界になってしまったんだ」
リオ 「そうです・・・・・え!? でもどうして隊長が私の夢を・・・・・」
リオ、ひらめく。
リオ 「まさか、隊長がウル・・・・・」
リオの顔の前に人差し指を突き出すヒダカ。
ヒダカ 「それは、これが夢だからだ」
ヒダカの姿が、だんだん目蓋から遠くなり―――
35、黒舞台 ライトを浴びるリオ、振り返る。
リオ 「え!?」
暗転。
幕が下りる。
《 以下次回 》
<登場怪獣>
異次元悪魔 マプーワ異次元に住む謎の存在。
リオの<夢>空間ではシルクハットの男の姿をしていた。
空間を自由に行き来したり、自分の分身をつくりだすことができる。
深海王子 パルゴンかつて企画された特撮番組に登場予定だったが
放送前に制作会社が倒産したために、倉庫に文字通りお蔵入りしていた。
◆ ◆ ◆
実相寺監督作品のビジュアルイメージに
バレエ「くるみ割り人形」を意識したお話。
イメージ上は、やってくる光の巨人達は歴代ウルトラマンであった。
絶滅怪獣 シマアカゴン

ウルトラマンF 第5.1話
「絶滅怪獣現る」に登場。
宇宙学名は「ドンラウスギスギス」。
あらゆる物質を消化吸収し、精神を安らがせるガスに変える。
基本的に大人しいが、その食欲は誰にも止められない。
空腹になると死ぬが、
十分な栄養があれば、2日に1個、卵を産む。
名前は、
お々とりゲンが地球を去る、ウルトラマンレオの実質的最終回、
大場コメットさん「ウルトラマンと怪獣アカゴン」から。
その安直なネーミングに感動して。
「アカゴン」…あのキングカッパープールに入ったような腕・・・まさか、垢ゴンでは・・・?
レオ後日談として見物のこの話、
同居人の少年が(怪獣化)して空に願うコメットさん。
コメットさん「(ウルトラマン)タロウさん(←元彼)、助けて・・・(的な)」
「今いくよ」的なウルトラサイン!
ゲン(本人)「やあ、コメットさん」
「今地球にいるのはウルトラマンレオだけだからね」
コメットさん「じゃあタロウさんはどうしても地球に戻れないの?」
ゲン 「・・・(無言)。それが宇宙のおきてなんだ。
僕のふるさとは・・・(略)。
僕ももう一度変身したら地球を去らないといけないんだ」
なんと厳しい宇宙の掟。
ゲンの目の前でタロウじゃないことをがっかりするコメットさん。
それでもその願いを聞いて第2の故郷・地球を去るレオ・・・
見物です。
レオにも変身します。OPも流れます。
学名は怪獣の名前の末尾をつなげたもの。
「ドン」「ラ」「ウス」「ギラ」。
キセンさんの
ガメートが優勝したデザイン祭等にもなぜか送られた怪獣。
もとは、

ウルトラマンOPに出てくるこのシルエットが何者か
結論が出なかったために作ったもの。
ゴルゴスか、マグラーか・・・?
ゲハラの打上げのときに居られた飯塚定雄氏に聞いておけばよかったが、
そんな恐れ多い勇気、僕にはなかったよ。
空想特撮シリーズ
ウルトラマンファイア
絶滅怪獣現る
登場人物
ヒダカ・マコト
ナナセ・リオ
ハラ・カツヒコ
イヌイ・ケイスケ
トヤマ・ヨシマサ
浅野(宇宙保安員シャギラの依代)・・・・・(男/30歳)
旅館主人
LEAD方面隊員
絶滅怪獣シマアカゴン
ウルトラマンファイア
「ウルトラQ 空想特撮シリーズ」





1、 三ツ森温泉郷(夜) 絶景の露天風呂。
浅野は湯に浸かりながら夜の森を眺めていた。
と、彼方に怪しい光。
次の瞬間、浅野は光に飲み込まれた。
2、 タイトル 「ウルトラマンファイア」

「絶滅怪獣現る」

(F・I) クレジット・タイトル――― (F・O)
「絶滅怪獣シマアカゴン 登場」
3、 三ツ森温泉郷(朝)/旅館「宮の屋」エントランス 美しい自然と温泉・・・・・
ヒダカ 「たまにはゆったり、自然の中で一休みするのもいいなあ・・・・・」
・・・・・と、それは温泉のパンフレットだった。
ハラ 「この饅頭なかなかいけるぞ」
イヌイ 「あっ、それ一個自分の・・・・・」
奥のソファではハラとイヌイが置き菓子をつまんでいる。
そこに現われる憤懣やるせないリオ。
リオ 「何くつろいでるんですか! 私達は温泉に入りに来たんじゃないんですよ! 任務で来たんですよ!」
リオ、ハラから饅頭を取り上げ一気に頬張る。
4、 旅館裏手 パンフレットの新緑の森が、見る影もなく根こそぎ丸裸の山になっている。
ヒダカ 「(パンフレットと見比べて)こりゃひどい」
旅館主人「でしょう? 風景を売り物にしてた私らにとっては大問題ですわ」
リオ 「たった一晩で森がなくなるなんて・・・・・」
5、 三ツ森山 雑草1本残っていない砂地と化した山。
イヌイ 「有毒物質でも流れ込んでみんな枯れちゃったんじゃないっスか?」
ハラ 「んだったら枯葉の1つでも残ってるはずじゃねえか?」
イヌイ 「そう言われれば確かに・・・・・」
急に2人の足元が揺れ始める。
6、 旅館裏手 ヒダカ達の居る場所も地鳴りが起き、
怪獣 「グオオ!」
山中から怪獣が姿を現す。
リオ 「怪獣!」
ヒダカ 「ははあ、山を坊主にしたのはアイツだな!」
素早くオーヴァル・ショットを手に、怪獣に向かう2人の背後から、
浅野 「待て。ドンラウスギスギスに手を出すな」
浴衣にサンダルという姿の浅野が現われる。
ヒダカ 「誰だ・・・・・?」
リオ 「何言ってるんです? 怪獣が今そこで暴れているんですよ!?」
浅野 「見ろ(指差す)」
その先に眼を移すヒダカとリオ。
7、 三ツ森山 イヌイとハラを覆う怪獣の影。
その視線の先で怪獣、器用に地面を掘り返し、
その口で木々を手当たり次第呑みこんでいく。
8、 旅館裏手 リオ 「草食・・・・・怪獣!?」
浅野 「ドンラウスギスギスは、こちらが手出しをしなければ
ただああやって食べているだけだ」
浅野をじっと睨むヒダカ。
ヒダカ 「君は・・・・・地球人ではないな?」
浅野 「(ほお、と感心して)分かるのか」
リオ 「え!? え!?」
浅野のサンダル。
9、 LEAD本部・全景 トヤマ 「(OFF)あいにく、総司令は宇宙環境国際会議で今パリだ」
10、LEAD来賓室 トヤマ、浅野、ヒダカ、とりあえずお茶菓子を囲んで座っている。
トヤマ 「それでヒダカ君、この方は本当に・・・・・」
浅野の格好に怪しさ満面のトヤマ副指令。
ヒダカ 「はい。確かに宇宙人、いや、正確には異星人です」
トヤマ 「(小声)いやにはっきり言うな・・・・・」
浅野 「失礼。この体はあなた達と話がし易いよう借りている
に過ぎない。本来の私は別の姿をしているのだ」
ハラ 「体を借りる? そんなことができるのか!?」
ヒダカ 「当然できる」
トヤマ 「(小声)だからなぜそう断言できる?」
浅野 「私は宇宙保安員のシャギラ。ドンラウスギスギスを
保護する指令を受け派遣された。ドンラウスギスギスは
宇宙で絶滅の危機にある。あの個体は最後の1匹かも
しれないのだ」
トヤマ 「だから攻撃するなと・・・・・」
シャギラ「いずれ我々の護送船がやってくる。それまで、ドンラ
ウスギスギスは自然な状態で保護していて欲しいのだ」
トヤマ 「怪獣の・・・・・自然な状態ねェ・・・・・」
意図せず同時に、お茶菓子の煎餅に噛み付く3人。
11、三ツ森山 相変わらず食事をしている怪獣。
既に森の殆どは食い尽くされてしまった。
双眼鏡で見張っていたリオ達。
ハラ 「確かに、なんか食ってりゃ、大人しいもんだ」
リオ 「でも、ここを食べ尽くしたら、また暴れ始めるかもしれま
せん。危険です」
リオのシーバーに通信。
山を越えて飛んでくる、2機のソードBLUE。
12、ソードBLUE内 ヒダカが搭乗している。
13、LEAD統合司令室 司令室のトヤマとシャギラ。
トヤマ 「ドンラウ・・・・・(噛む)そのドン・・・・・何とかはY55
地区に輸送し、隔離することにした。私達地球人が殺生を
好まないと宇宙人さんに納得してもらうためにもな」
14、三ツ森山 トヤマ 「(OFF)ソードBLUEにはクレーンアームを換装し
てある。特専の諸君はドンラ・・・・・」
15、統合司令室 ヒダカ 「(無線/OFF)ドンラウスギスギスですよ」
トヤマ 「そのややこしい名前は何とかならんかね」
シャギラ「宇宙に無数に存在する生物を区別するため、正確な学名は必然に長
くなるのだが・・・・・ならば君らの言葉に直してみようか?
分かりにくいとは思うが」
トヤマ 「それは?」
シャギラ「シマアカゴン」
怪獣の姿を見た全員が納得した。
16、BLUEリオ機 起動確認をするリオ。
リオ 「準備完了です」
17、BLUEヒダカ機 イヌイ 「(OFF)こっちもOKっス」
ヒダカ 「では、シマアカゴン輸送作戦、開始!」
操縦かんを引くヒダカ。
18、三ツ森山 山を完全に食い尽くし、飢えていたシマアカゴン。
その目の前に、突如巨大な牧草のブロックが降りてくる。
食い付くシマアカゴン。
ケーブルを伝わってその衝撃にヒダカ機が揺れる。
19、そのすぐ側の麓 ハラ 「シマアカゴンHIT!」
大型銃を構えたイヌイ。
イヌイ 「ぐっすり眠れ! UNZ麻酔弾、発射!」
20、三ツ森山 被弾したシマアカゴン、次第に動きが鈍くなり、
入眠。
その頭と尻尾が2機のBLUEから伸びたクレーン
アームに堅くロックされる。
21、ヒダカ機/リオ機 ヒダカ「引き上げー!」
めいっぱい操縦かんを引くヒダカ/リオ。
22、三ツ森山 宙に引き上げられた巨体、徐々に空高く上がり、
山の彼方へと輸送されていく。
23、Y55地区 臨海埋立地として殺風景なY55地区。
「威風堂々」が流れる中、次々とゴミを満載した
ダンプカーがやってくる。
特設テントに到着したWINDY、トヤマとシャギラが降りてくる。
トヤマ 「本当にゴミなんかを食べるのか?」
シャギラ「シマアカゴンはどんな物質も消化吸収してしまう。しかも、
地球のように様々な物質があれば、シマアカゴンも
飽きずに食べ続けることだろう。まさに奴にとって地球はうってつけの環境だ」
トヤマ 「怪獣に気に入られてもねェ―――」
隊員 「ソードBLUE、まもなく到着します」
見上げる2人。
24、ソードBLUEリオ機 ヒダカ 「(無線/OFF)見えたぞ、あれが目的地だ」
リオ 「了解・・・・・」
突如揺れる機体。
25、上空 シマアカゴンが眼を覚まし、暴れ始めた。
26、リオ機 必死にソードを水平に保ちつつ、
リオ 「麻酔が効かなかったんでしょうか!?」
27、ヒダカ機 ヒダカ 「いや、おそらく」
28、上空 シマアカゴンの腹が鳴る。
29、Y55地区上空 それでも何とか、Y55地区の上空に到着する。
トヤマ 「よーし! アームを切り離せ!」
30、リオ機 リオ 「了解!」
レバーを引く。
31、上空 尾を掴むクレーンからアーム部分が切り離される。
32、ヒダカ機 ヒダカ 「りょうか・・・・・」
機体の底から聞こえる何かをかじる音。
33、上空 空腹に耐えかねたかシマアカゴン、クレーンにが
っぷり噛み付いている。
尾からクレーンが離れたことで2本足で着陸したが、
なおもその口を離そうとせず、ヒダカ機に繋がる
クレーンケーブルを飲み込んでいく。
34、ヒダカ機 操縦困難に陥るソード。
リオ 「(無線/OFF)隊長、脱出してください!」
トヤマ 「(無線/OFF)ヒダカ、早く逃げろ!」
ブレイズタイマーを手に取るヒダカ。
35、Y55地区 その時、シマアカゴンがゲップをして口を離す。
36、ヒダカ機 急回転する機内、ヒダカ、誤って脱出レバーに引っかかってしまう。
37、Y55地区上空 ソードから勢い良く脱出するヒダカ。
その衝撃で、ブレイズタイマーを落としてしまう。
タイマーはその下で口を開けていたシマアカゴンの腹の中へ―――
38、Y55地区(2日後) ゴミの山を貪るシマアカゴン。
39、特設対策テント 監視を続ける方面隊員達におむすびを配るリオ。
テントの陰で休んでいるハラ達の方にも持ってくる。
リオ 「ハラ隊員はタラコで、イヌイ隊員はシャケでしたね?」
3人揃ってシマアカゴンを見ながら、
ハラ 「休みもせずに良く食うもんだ」
イヌイ 「この2日間で日本の廃棄物の70%を飲み込んだらし
いっスよ。都内ではカラスが激減したそうっス」
ハラ 「反対に休んでばっかなのが・・・・・」
テントの奥でヒダカ、椅子にもたれてぐったりしている。
イヌイ 「あれからずっとあんな感じっスね」
リオ 「疲れてるンですよ。たまにはゆっくりしてもらいましょう」
3人の元に歩み寄るシャギラ、相変わらずサンダル履きである。
シャギラ「地球人には、色々迷惑をかける」
リオ 「いえ、廃棄物を食べてもらって、逆にこっちが助けてもらってるみたいです」
シャギラ「シマアカゴンは、かつては宇宙の各地に生息していたんだが、
やがて狩りつくされて、遂には絶滅寸前に追い込まれてしまった」
リオ 「・・・・・」
イヌイ 「ところで、あれほど食べた物は一体どこに行くんスかね?」
シャギラ「勿論、地球上の生物同様、胃袋に入り、そして・・・・・」
ハラ+イヌイ+リオ
「まさか!」
40、Y55地区 身震いするシマアカゴン、様子がおかしい。
息を呑む一同。
大きく口を開けて―――大量のガスを吐き出した。
しかし、そのガスは非常に甘く、まるで香水のような心地よさをもたらす。
41、特設テント リオ達もその香りにふんわりしてしまう。
シャギラ「この特殊な香りを狙われ、密猟され続けたのだ」
シャギラ、ぐったりするヒダカを見つめる。
ピー! シーバーに通信。
トヤマ 「緊急事態だ諸君、日本で調達できるゴミの塊が底を尽
いてしまった! 今各国に輸送を頼んでいるが、間に合いそうにない!」
ハラ+イヌイ+リオ
「エエ!? ということは!」
シマアカゴン
「ドゴアァァァ・・・・・!」
食べ物を無くしたシマアカゴン、暴れ・・・・・という
より周囲に敷かれたバリケードも車両もコンクリートも、
徹底的に食べ回り、遂にY55地区から海へと逃げ出そうとする。
シャギラ「奴を逃がしてはいけない!」
ハラ 「でもここにいたら俺達も食われちまうぞ!」
リオ 「一旦ソードに戻りましょう!」
走るリオ達。
シマアカゴン、特設テントの回りも地面ごと食べ進む。
42、そこから離れた場所 ハッ、と立ち止まるリオ。
ハラ 「どうした!?」
リオ 「隊長!」
43、テント 気だるくなかなか動けないヒダカ、テントごとシマアカゴンに
一飲みにされてしまう―――
44、そこから離れた場所 ハラ+イヌイ+リオ+シャギラ
「!!」
45、Y55地区 シマアカゴン、急に腹の調子がおかしい。
フラッシュビーム!
その口から光球が抜け出し、
ウルトラマンファイア登場。
リオ 「ウルトラマン! ウルトラマンが来てくれた!」
イヌイ 「でもなんで怪獣の腹の中から・・・・・」
シマアカゴンに立ち向かうファイア、
シマアカゴン、その口を開いて光線―――ファイア、身構え
―――ではなく香水ガスを噴き出す。
これにファイア、戦意喪失してダラン、とする。
体当たりを受け吹き飛ぶファイア。
リオ 「ウルトラマン、頑張って!」
なんとか立ち上がり、勇んで構えるファイア。
しかし、その向きは相手と真逆!
背中からシマアカゴンに圧し掛かられ、食い付かれようとする。
カラータイマーも赤に変わった。
危機一髪!
シャギラ「来たか・・・・・」
天から降りてくるUFOの一団、その特殊光線を受け、
すっかり大人しくなるシマアカゴン。
× × ×
Y55地区に駆けつけたトヤマ。
トヤマ 「そうか、連れて行ってしまうのか。地球のゴミ問題解決のためにも、
残してくれてもよかったんだがね」
シャギラ「フム・・・・・そこまでいうならそうしようか」
トヤマ 「本当か?」
シマアカゴンの腹の下に卵がある。
シャギラ「シマアカゴンは空腹になると死ぬが、
逆に十分に餌をやれば2日に1個、卵を産む。
だがその繁殖力の強さが自ら食糧不足を起こし、絶滅
危機の一原因になったのだ」
トヤマ 「是非、連れ帰ってください!」
UFOに吸い込まれるシマアカゴン、とその卵。
UFOは空に消えていく。
ヒダカ 「君は行かないのか?」
シャギラ「私は、この体を返さないと」
46、旅館「宮の屋」・露天風呂 風呂に浸かるハラとイヌイ。
ハラ 「極楽、極楽・・・・・」
三ツ森山にすっかり緑が戻っている。
イヌイ 「シャギラ達がおわびに再生していったんスね」
47、三ツ森 浴衣姿のヒダカとシャギラ。
シャギラ「これを」
ヒダカに黒いカードを手渡す。
シャギラ「だが、君がいるならば私達が心配することもないだろう。
さらばだ、ウルトラマン」
浅野の体を抜け出し、球体が空で待つUFOへと昇って・・・・・消える。
リオ 「隊長―!」
湯上りのリオが駆けてくる。
リオ 「隊長のために皆で休んだんですよ。疲れてたみたいだから」
ヒダカ 「そうだな。せっかくだからゆっくりしないと。でも今頃、副指令は」
48、統合司令室 苦情電話の集中豪雨にさらされるトヤマ。
ヒダカ 「(OFF)各国から集めたゴミにてんてこ舞いしてるだろうな」
49、三ツ森 リオ 「それは?」
ヒダカの手のカード。
ヒダカ 「シャギラが置いていった。記録媒体らしい。何々・・・・・」
沈黙するヒダカ。
リオ 「何か書いてあるんですか?」
50、宇宙 地球を離れるUFOの一団。
ヒダカ 「(OFF)宇宙時間50期以内に絶滅危機のある生物・・・・・
ノンマリティアヌス・・・・・生息・太陽系第3惑星・・・・・地球―――――」
《 以下次回 》
<登場怪獣>
絶滅怪獣 シマアカゴン宇宙学名は「ドンラウスギスギス」。
あらゆる物質を消化吸収し、精神を安らがせるガスに変える。
基本的に大人しいが、その食欲は誰にも止められない。
空腹になると死ぬが、
十分な栄養があれば、2日に1個、卵を産む。
宇宙保安員 シャギラ様々な宇宙人により構成される宇宙保安員の1人。
温泉客・浅野の体を借りて活動する。
もちろん、サンダルを履いている。(⇒「宇宙指令M774」)
◆ ◆ ◆
夏休み子供スペシャルで第2シーズン第1話です。
ある意味で止められない怪獣、歯が立たないウルトラマン、
右往左往する隊員達。
全体的に「空の贈り物」のオマージュです。